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LastupDate:2008/8/13
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第119回 北京五輪後の課題――弱者の権利保護

(2008年8月13日)

  2008年8月8日に北京五輪が開幕した。100年来の民族の念願が成功裏に行われることを望む。この五輪後の課題は何か。社会的弱者の権利を保護することに軸足を移すことが重要であると思われる。
  社会的弱者とは何か。この明確な定義があるわけではない。余は、「社会構造の急激な転換および社会関係のバランスの失調、または一部の人の個人的な原因(例えば、競争における失敗、失業、老齢化、身体障害など)により社会の現実に適応できなくなり、生活に障害または困難が生じた者である。これには、(1)物質生活において貧困状態にある者、(2)市場競争のなかでの劣位にある者、(3)社会および政治において当該所属階層の利益などを表明し追求できない者」をいうとしている(余少祥『弱者的権利−社会弱勢群体保護的法理研究』社会科学文献出版社、2008年、5-6頁)。
  市場経済の進展は、強者・富裕層を生み出しているが、一方で社会的弱者層も生みだしている。かかる弱者層が存在するということは、経済発展を至上命題としていたときには、直接的にこの問題を取り上げることはいささかタブー視されてきていた気もするが、最近では積極的に言及され、社会的弱者をいかに保護するべきかに関する議論が行われるようになってきている。
  社会的弱者の権利(民権)の保護・改革に関しては、例えば、次のような動きがある。
  5月に深圳市は、政治の民主化を進める改革案を公表した。市長を共産党推薦者1名の信任投票にするのではなく、複数の候補者から選ぶ「差額選挙」の導入など19項目が検討されている(日本経済新聞 2008年7月28日)。
  また、居民委員会の選挙では、出稼ぎ労働者(農民工)であっても6ヶ月以上居住している者には選挙権を付与する法改正が検討されている(日本経済新聞 2008年8月5日)。
  しかし、一方で中国政府の威信をかけた北京五輪であるから、必ずや華やかなイメージを確保するためであろうか民権を無視していると思われる動きもある。
  北京市中心街の水源確保のため、北京郊外の農村では稲作からトウモロコシへと転作が強要された。売り上げが5分の1になることから、この補償金として1畝当たり450元が支給されることになっているが、2008年にはまだ補償金が支払われていないという(東京新聞 2008年8月2日夕刊)。
  四川大地震で校舎倒壊で子供を失った遺族は、倒壊の責任追及の断念を強いられ、遺族が集団として何らかの行動をとらないように地元政府に監視されているという(日本経済新聞 2008年8月4日)。
  自由競争が奨励されるなかで、多くの貧困層が自らは社会から排斥されていると考え、不満の思うことが多くなっているともいわれる。北京五輪後には、社会的弱者の存在を認め、彼らの権利保護を積極的に考える施策が求められることになるだろう。この場合、「経済的貧困」だけでなく「権利の貧困」についても十分に配慮する必要がある。


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