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LastupDate:2005/9/30
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第50回 富の偏在、拡大する貧富の格差

(2005年9月30日執筆)

   2005年6月29日、寧夏石嘴山市中級人民法院は、王斌余に死刑判決を下した。王は、甘粛省の出稼ぎ農民である。王は、臨時工をしていた工場で給与の支払をめぐるトラブルから、経営者家族4人を殺害し、1人に重傷を負わせた後、警察に自首してきたという事件である。
   この事件が9月初めに報道されてから、全国で注目されるようになり、王の処分をめぐってさまざまな意見が新聞などに投稿されるようになった。
   王は、甘粛省の貧農の子弟である。彼は17歳のときから都市に出稼ぎに出て、家族のために仕送りを始めていた。ところが事件を起こした工場では、5000元分の給与が不払いであった。法院や労働部門に訴えたが半年たっても、法院も労働部門も取り上げてくれなかった。このようなトラブルが高じて、王はついに工場経営者家族らを殺害するに至ってしまった。
   王の弁護士は、判決の後に直ちに控訴し、現在は高級人民法院において公判中である。控訴審における通常の審理期間である1ヵ(ないし1ヵ月半)は過ぎたが、判決を下すことができずに1ヵ月延長されている。
   王に同情する声が少なくない。法院や労働部門が王の給与支払請求の訴えを受理しなかったのは、工場経営者から賄賂を受け取ったのではないかという批判さえある。そもそも1億2,000万人もの農村出稼ぎ労働者が存在する。彼らは、好んで出稼ぎに出るわけではなく、大半は家族の生活を支えるためである。辛い労働が強いられ、反して手にする収入は少ない。資本家が多くの収益を獲得しているという構造である。王の事件は、改めて出稼ぎ労働者の悲惨な状況を世間に知らしめることになった。
   一方、厳格に法を執行するのであれば、刑法の基準によらざるを得ず、死刑判決が相当であるという意見もある。給与不払いがあったとしても、このために経営者家族を死傷させることは許されないからである。このような意見は、法曹関係者に多いであろうか。もっとも、この事件を教訓として死刑廃止論も僅かではあるが、出ているようである。
   エイミー・チュア(Amy Chua)『富の独裁者(World on Fire)―驕る経済の覇者:飢える民族の反乱』(久保恵美子訳、光文社、2003年)は、市場経済化がもたらすリスクを再考させる。
   エイミー・チュアは、世界経済の中で市場経済と民主主義を提唱することは、ときには富の独裁者と極端な貧困層を作り出し、これに対して民族紛争が生じることを深刻に受け止めるべきであるという。市場経済化を急激に推進する中国において、同様のことが発生しているのではないかとの懸念がある。中国における富の独裁者は、大都市の官僚、私営企業家などであろうか。
   2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博へ向けて、中国の経済はまだ高成長を続けそうである。このとき、富はますます偏在することになるだろう。中国が抱える富の偏在、富の独裁という問題もますます大きくなると考えられる。



次号の更新は10月12日(水)ころを予定しています。

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