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第1014回 人民元は今

(2022年4月7日)

 ちょうど10年前、2012年に<人民元の国際化>というテーマでコラムを書きました(531~2号)。中国が人民元の国際化を意識し始めたのは2008年のリーマンショックがきっかけです。米ドルに頼りすぎることの危険性に気が付いたからで、当時の人民日報には「人民元国際化」を掲げた記事が次々と掲載されました。この動きは第13次5か年計画にもしっかり受け継がれ、計画初年(2016年)、国際決済銀行の相対為替取引に占める人民元は1.9%に上昇、また、同年、IMFのSDR構成通貨にもなり、その構成割合は円をしのいでいます。       
 翌2017年7月、ヨーロッパ中央銀行は上半期の外貨備蓄に5億ユーロ相当の人民元を加える、と発表、日本の経済産業研究所も調査対象企業(151社)の中国向け輸出に占める人民元建て比率が12.3%に増大した、と発表しました。こうした動きの原動力は、国際貿易額に占める割合がアメリカに迫る中国の経済的国力の増加で、為替リスクの負担を日本側が背負わざるを得なくなってきていたという背景もあります。
 人民元が米ドルにとって代わって世界の基軸通貨になるには通貨価値の安定が大前提で、今の中国は、元安になっても、旺盛な輸出力で物価上昇分を上回る賃金アップが可能という良性インフレを保てる可能性や、巨額の赤字国債を抱える日本と比べ、金利を引き上げる余力も十分あります。しかし、中長期的に見てそれが持続するかどうかに加え、2016年の上海株暴落で政府が市場介入したように、いつ、強権発動による政治介入があるかわからない状況では、基軸通貨は夢のまた夢でしょう。
 そんな中、中国は、その膨大な国内市場を背景に、独自の決済システムCIPSを構築したり、また、独自の元圏を形成しようという動きを見せています。中国は2021年まで12年間、ASEANの第一貿易相手国であり、昨今のチェンマイイニシアチブでは、ASEAN10か国と日中韓の間で、アジア金融危機救済システムに円や人民元を組み込むことも決まりました。こういった動きや“一帯一路”の発展がその足場になるでしょう。2019年から盛んに喧伝されていたデジタル人民元の実証実験(スマフォ同士がタッチするだけでOK)が2020年10月、深圳で行われ、QRコードが普及している中国では抵抗もなく受け入れられました。次世代では覇権を、という中国の試みは既に始まっているのです。

次回は4月14日更新予定 テーマは<節約運動>です。

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