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第1185回 中国のレアメタル政策-その1―

(2025年9月4日)

  米中の関税交渉の最大のキーワードはレアメタル。中でもハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)の争奪が最大の焦点になっています。中国がレアアースに注目し始めたのは今から40年ほど前。数人の科学者が鄧小平に基礎研究の重要性を提言し、それを受けて鄧小平の肝いりで始まった863計画(1986年3月スタート)でレアアースを含めた新素材の開発を掲げたのが始まり。その後、積極的改革開放政策の再スタートとなった1992年の南巡講話で、鄧小平は「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」と述べ、その戦略物資としての重要性を強調しました。そして2010年に尖閣列島帰属問題で日本と対立した際、レアアースを使った高性能磁石の生産を得意とする日本に対して、輸出を一時停止する措置を採り、その高性能磁石を必要とするアメリカにもショックを与えました。「輸入できないなら安定供給が担保される中国国内で」と考えた日本の磁石メーカーは、中国企業と合弁会社を設立、ところが、これが引き金となって中国企業の技術力が急速に向上し、JLマグ(江西金力永磁科技)など大手企業が出現しました。その後ろ盾になったのが中国政府のハイテク産業振興政策《中国製造2025》だったことは言うまでもありません。


 17種類あるレアアースのうち、重希土類(原子量が大きい希土類)はEVのモーターや、ガラス研磨剤、排ガス触媒などに使用され、「産業のビタミン」と称されていますが、その採掘・生産は中国に偏在しています。アメリカは1980年代に世界の三分の一のレアアースを生産していましたが、2010年代前半には中国が世界の9割を生産するに至りました。こうした背景から、アメリカの対中制裁に対し、レアアースが交渉の切り札になることは疑いなく、中国はここ10年、その体制整備に邁進してきました。22024年10月に施行された「稀土管理条例」は、稀土資源が国家所有であることを明記し、国による採掘・冶金・分離・流通・輸出入の一体的管理、産業の高度な発展、関連する生態保護や資源の保全を掲げました。アメリカを中心に、中国以外での生産が模索される中、中国の生産量は世界の7割ほどまで下がりましたが、一方、中国は付加価値を生み出す加工技術の育成にも力を入れ、現在、加工段階のシェアは90%近くになっています。既に中国からの輸入が2~3か月も停止すれば、アメリカの軍需産業は在庫が枯渇してしまうと言われるほどになっているのです。続きは次回に。


   

 
 

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