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第1186回 中国のレアメタル政策-その2―
(2025年9月11日)
こういった状況から、トランプ再選後の米中関税協議では、レアアースなどレアメタルの取り扱いが大きな焦点となりました。言い換えれば、レアアースは中国側がトランプ大統領による高関税に対抗する絶好の切り札になったのです。トランプ再就任前の2024年12月2日、バイデン政権が中国向け半導体の輸出規制強化を公表すると、すかさずその翌日、中国商務省は、半導体の材料になるガリウムをはじめとする重要鉱物の米国向け輸出を禁止、同月21日にはレアアースを使用する高性能磁石などの製造技術とレアアースの採掘・選鉱・清廉などの技術の輸出にも制限を加える措置を打ち出しました。翌2025年2月、トランプ側が中国からのすべての輸入に10%の追加関税を発表すると、同日、中国はタングステン、モリブデンなど数種のレアメタルに関する品目について、輸出規制を打ち出しました。こうした動きは鉄鋼産業や自動車産業を直撃します。4月2日にトランプ大統領が中国に54%の関税を発表すると、中国は4日に国家の安全を理由にサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム等、一部の中・重希土関連物質に輸出許可制を実施、その影響はあらゆるハイテク分野に広がりました。また、レアアースの精錬も国有大手企業に限定しました。レアアースの精錬は環境汚染につながりやすく、先進国が中国に依存したことから、精錬技術が中国に集中するようになり、中国以外で鉱物を採掘しても中国に運ばないと精錬できない状況が進んでいたため、アメリカと日本を主な輸出先(53%)とする中国のレアアースが規制されれば、その影響の深刻さは計り知れません。中国はこれを逆手に取ったのです。
アメリカが145%の報復関税を課す中、4月15日、レアアースの輸出はほぼストップし、ただでさえ、近年、中国の軍事装備品製造・調達スピード(米国の5倍以上)に焦りを感じていた米国側は窮地に立たされました。在庫は半年で枯渇することが予想され、自国内で製造施設を整備しようにも、最低1年以上はかかります。5月に入ると、中国は更にレアアースを含む戦略鉱物の密輸や第三国経由の迂回輸出に対する取締りキャンペーンも公表、締め付けを強化し、影響は欧州にも及び、欧州メーカーも窮地に立たされました。