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第1198回 高市発言-中国の反応

(2025年12月4日)

  11月7日の高市首相の国会答弁「中国が台湾を戦艦で攻撃したら日本の自衛権行使の範囲と見なす」が日中関係に波紋を呼んでいますが、中国側の真意はどこにあるのでしょう。発言後三週間を一つの目安として人民日報の報道を分析してみます。まず驚かされるのが、その間、同紙一面に関連記事が一本も掲載されなかったことです。更に最初の一週間で関連記事は事件発生後一週間後の「鐘声」欄1本のみ(「鐘声」は人民日報の数多あるコラム欄でも硬派の代表)、しかも今回の位置は「要聞」(3面)の右下(トップではない)でした。三週間スパーンでは、その数は11本のみ(外交部などの公報コーナーは一本とする)。紙面の3分の一を占める大きな記事は1本だけ(それも、日本の各界が高市発言を批判という三人称記事)で、習近平氏が一人称となった批判記事はゼロ、社説もありません。これは小泉首相の靖国参拝時の「習近平総書記が日本右翼分子の靖国神社参拝に断固反対した」や、尖閣列島国有化問題の時の報道と比較すると雲泥の差。外交部の定例会見でも内容は決まり文句ばかりとなれば、国家としての優先度がかなり低いことは一目瞭然です。


 11本のうち要聞面に7本、国際面に4本掲載されましたが、「要聞」7本の内訳は「鐘声」3本、公報コーナー1本、駐日大使1本、社会科学院特約研究員1本、藤田高景(「村山首相談話を継承し発展させる会」理事長)で、国際面4本のうち1本は上述の日本各界人の発言、公報コーナー3本です。日本への渡航注意や留学注意、更には水産物輸入の一時停止は、広報コーナーのわずか数行で処理されています。各記事の内容の多くは、過去の戦争における日本の行為への避難や、日中共同文書の遵守を求めるもので、商務部は「日本は責任ある態度で経済貿易のために良好な環境を築くべきだ」と述べています。


 一方、解放軍報は11月21日に強硬な表現を使った記事を掲載していますし、黄海での実弾演習、尖閣諸島周辺への海警船パトロール強化、更には日中間航空機の減便、日本映画や日本人文化イベントの中止などの措置はしているものの、人民日報を見る限り、宣伝部から抑制指示が出ているのは明らかです。このように当局がこの問題を政治化せず、デモも容認していないのは、経済的不満のはけ口に利用されることを恐れているためです。経済を最優先せざるを得ない現状の中国はこれ以上の関係悪化を望んでおらず、日本側は、これ以上むやみに相手を刺激せず、冷静に対処すべきでしょう。  

 
 

三瀦先生のコラム