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 第712回 弁護士

(2016年3月22日)

2014年の18期四中全会で<"依法治国”(法による国家統治)>を標榜した中国共産党。その「中国独自の社会主義法治体系確立の原則」とは、「憲法は党と人民の意志の集中的体現」という認識に立つ中国共産党の指導の堅持であり、人民の主体的地位の堅持は「立法作業に対する党の指導の強化」即ち「立法が重大な体制・政策上の調整に関わる場合はまず党中央に委ねて討論しなければならず、その後、全人代で討議修正される」という手順に依ります。
2015年の中国は、この前提の下での法治の推進と、国際的に認識されている法治の概念(中国側から言えば「西洋の概念であり、人類普遍の概念ではない」)がまさにせめぎ合いを始めた年と言えましょう。中国にとって避けて通れないプロセスですが、民主と人権に関する中国独自の定義が何処まで世界に通用するかは未知数です。
その象徴が、2015年7月に北京鋒鋭弁護士事務所の周世鋒弁護士・王全璋弁護士ら数人が当局に連行され、後に国家政権転覆の容疑で正式に逮捕された事件です。これとほぼ軌を一にして全国で多数のいわゆる人権派弁護士が当局に身柄を拘束され、西側メディアでも大々的に報じられました。北京鋒鋭弁護士事務所は、2015年5月に黒竜江省綏化市慶安県で発生した、警察官による陳情者射殺事件に対する抗議活動を支援したことなどで知られています。 
この事件に関する人民日報の報道は、これらの弁護士を「各地の揉め事に首を突っ込み扇動し、法廷外で裁判官や役人をつるし上げる輩」と断罪し、「北京鋒鋭弁護士事務所は2012年7月以来、全国40件余りの“敏感な問題”に首を突っ込んだ」「慶安事件は正当防衛だ」と主張しています。
一方で人民日報には、容疑者との接見時の監視の排除や弁護士からの問い合わせに対する書面による回答など弁護士の正当な活動を保証すべきだ、と言う記事も多くみられるようになりました。2015年1月から設けられた<中国法律師故事>欄では、全国26万人の弁護士を代表する著名弁護士が弁護士活動の在り方について論陣を張りました。勿論、政府批判はありませんが、弁護士に対する認識を高めようという意図は随所に垣間見られます。
2015年8月、“全国律師工作会議”が開催され、弁護士の知る権利、申請権、会見通信権、閲覧権、証拠収集権、弁論弁護権などの擁護が謳われましたが、一方で、弁護士が守るべき職業道徳とはいかなる内容を指すのかがはっきりしなければ、法治が画餅に帰す危惧も拭えません。

三瀦先生のコラム