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 第719回 焦眉の急!日中翻訳人材−その1−

(2016年5月16日)

陝西省にある西安外国語大学は一帯一路政策の推進に合わせ、中央アジア地域の38の言語科を設置する構想を進めているとのこと。翻って日本語学科となると全国506校、学生数は70万人とも言われますが、最近の日中関係と日本の中国投資企業の減少も相俟って、就職は必ずしも順調ではありません。
就職難の理由の一つは、優秀な人材の多くが通訳に顔が向いてしまっていることです。勿論、同時通訳者などの養成は不可欠であり、また、高い報酬も見込めますが、通訳内容に関する高度な知識は必要とされても、情報収集や分析、レポートの作成や戦略的提案を求められるもことはありません。逆から言えば、日本企業が喉から手が出るほど欲しい、上述のような能力を備え、高度の翻訳力を身に着けた人材が決定的に不足しているのです。
現代中国語の書き言葉は、正式には白話書面語と言います。1911年の辛亥革命以降1919年の五四運動を契機に平易な白話で文学作品を書こうという文学革命が起き、1950年代に入ると、その影響が全国規模の大新聞にも及びました。その結果、新聞などの文体(論説体)は口語体になり、論説体を口語体と別ジャンルで研究することはナンセンスになってしまったのです。中国においても日本においても、論説体を対象とした研究論文や著作は皆無、教学上でも、論説体の文章を読解する授業はあっても、口語体との違いが様々な角度から講ぜられることは無く、そういう観点から取り扱ったテキストも無くなりました。ビジネス中国語に関する優れたテキストは日中双方に数多く存在しますが、口語体との違いを体系的に説明したテキストはありません。
こういった状態が数十年続いている間に、論説体は独自の進化を続け、現在の論説体は、大まかに言って6割は口語体と共通していますが、一割は文語の要素が復活し、三割は独自に進化した現代論説体独自の特徴を具えています。この特徴部分を正確に把握しないと、95%は正確に訳せても、最後の5%で誤訳を生んでしまうのです。たかが5%、されど5%、中国のある裁判所の統計では、日本企業に関するビジネストラブルの10%は日本側の誤訳が原因とも。法律の条文や契約書に5%誤訳が有ったらたまったものではありません。でもそれが実態であり、実は事態はもっと深刻なのです。

三瀦先生のコラム