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 第741回 職業モラル

(2016年10月17日)

習近平政権になって街や駅の壁にモラルを称揚する絵やスローガンがそこかしこに見受けられます。彼が使った“国无德不兴,人无德不立”という言葉は随所で引用され、胡錦涛政権以来よく使われた「社会公徳・職業道徳・家庭美徳・個人品徳」を総括する語彙として、最近では“公民道徳”という語が目につくようになりました。それとともに、社会主義の核心的価値観として「富強・民主・文明・和谐・自由・平等・公正・法治・愛国・敬業・誠信・友善」という12のキーワードを掲げた看板もすっかりなじみになりました。
今、中国社会のモラル構築の中で最も提唱されている一つが「信用」。とりわけ、ビジネスにおける信用問題は差し迫った問題です。製造・物流・流通・販売各サイドのモラルでは偽物粗悪品の製造や杜撰な運送・配達が続発し、ネットビジネス上でトラブルが生じた顧客の割合は過半数を優に上回っています。ネット上での評価でうっかり“差评”(マイナス評価)をつけようものなら、途端に嫌がらせ、脅迫、暴行の餌食に。とはいえ、消費者側のモラルもなかなかなもの。医療では患者側の無体な暴力が大問題になっていますが、もちろん医療に限りません。企業や個人の融資・取引・納税上の問題もクローズアップされ、信用ランク付けやブラックリストの作成公表に関する記事も目につきます。
そんな中、ここ1年ほどで目につくのが、“工匠精神(職人気質)”に関する記事。1年余り前の2015年8月4日付人民日報第6面は“敬業報国、匠心円夢”という記事を全面特集で掲載しました。その根源は上記12のスローガンにある“敬業”精神ですが、その意図するところは決してそれだけではありません。2016年3月24日付の“職業教育尤重工匠精神”「職業教育は特に職人気質を重んじる」という記事は“工匠精神”を「職業に対する尊敬、仕事に対する執着、製品とサービスに完璧を求める価値観」であると定義づけ、具体的には職人個々が、「一意専心、粘り強く、端然として技術革新に取り組み、自己を高め、人にやさしい、心を込めた製品造りに励み、品質を高めることだ」と解説しています。ものづくり大国と言われながら、製品の質で先進国に水をあけられ、自国民さえもが海外で爆買いに走る姿への強い反省がうかがわれます。従来、敬業モデルと言えば、医療関係者・教師・鉄道乗務員・清掃労働者が定番でしたが、“工匠精神”の称揚は新たな側面の展開を示していると言えましょう。

三瀦先生のコラム