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第951、952回 半導体を巡って-その1、2-(合併号)
(2021年1月14日)
2020年6月、世界半導体市場統計(WSTS)は、2021年の世界半導体市場規模が2020年比6.2%増の4522億ドルに達すると予想しました。現代の花形産業、半導体の製造を巡って、各国企業は今、しのぎを削っています。年頭に当たって、同業界の最近の主な動きを、いくつかの要因に分けて概観してみましょう。[一] アメリカによる輸出規制
2020年5月、アメリカは、米国製の製造装置を使ったファーウェイ向け半導体輸出を禁止する、と表明、一部の製造装置の対中輸出が困難になりました。これにより、ファーウェイは、6月にはスマホ生産計画を下方修正、10月には輸出規制で半導体生産が悪影響を受けたと自ら発表、香港市場では同社の株が急落しました。また、シェア1位を誇る5G用基地局設備も、使用比率が27.2%に達するアメリカ製品を使えなくなり、日本のソフトバンクを始め、各国で他社製品使用への切り替えがなだれを打ちました。
規制を受け、韓国のサムスンは、ファーウェイへの有機Eパネル供給を米商務省に申請、認可は得たものの、一体となる半導体の承認は得られませんでしたし、日本企業では、スマホ画像センサーでソニーが許可されたものの、キオクシア(旧東芝メモリ)が申請した5G・基地局などの通信技術は、アメリカにとって脅威となるため、認可が下りませんでした。
[二]台湾の動き
2020年、台湾の半導体生産額は前年比21%増で過去最高になりましたが、それには、ファーウェイへの制裁で、半導体生産委託先がさらに台湾へなだれ込むというファーウェイ特需が起こったことも見逃せません。半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、ファーウェイの駆け込み需要やアップルなど世界の半導体大手からの受注の殺到で好調に推移しましたし、半導体設計開発の台湾最大手メディアテックも、7~9月期はファーウェイからの駆け込み需要で純利益が前年同期比で93%も増加しました。
11月20日、台湾はワシントンで米台初の経済対話を行い、半導体など7分野で連携を強化する覚書を交わしたが、これはまさに、世界の半導体の7割を受託生産し、軍事兵器や5Gの中核技術を担う台湾が対中包囲網形成に乗り出した瞬間と言えましょう。
[三]中国の対応
2012年の党大会で総書記に就任した習近平は、2015年に「ハイテク産業振興政策2025」を掲げ、半導体を重点産業として位置付け、2020年には自給率を40%に、さらに2025年には70%に引き上げる目標を掲げましたが、2020年実績は16%弱に止まりました。
一方、アメリカによる輸出規制の影響はファーウェイ以外にも各方面に波及しました。福建省晋華集成電路は米アプライドマテラルズなどとの取引が停止し、量産計画が頓挫しましたし、習近平の母校、清華大学に属する中国半導体大手の紫光集団は、その肩入れを背景にDRAM工場建設に着手、2022年には量産を開始する計画でしたが、競争力のあるDRAM製造には米国製の製造装置が必要で、新工場稼働の目途が立たず、債務危機に陥り、DRAMで苦戦する中国が、その状況を打開のため、10年間で約12兆円を投資し、国内自給度を高め、海外依存度を減らそうとしたこの大プロジェクトもまた頓挫したのです。2020年10月に台湾の半導体大手聯華電子が米半導体大手マイクロン・テクノロジーのDRAM関係技術を、2016年に国策で設立された福建省晋華集成電路に無断で移転、米法務省から罰金6千万ドルを課せられた事件は、中国が喉から手が出るほどアメリカの関連技術を手に入れたがっていることを象徴しています。
2020年6月、中国最大の半導体製造装置展示会「セミコン・チャイナ」が上海で開幕し、半導体国産化が大いに強調されましたが、その道のりは多難で、2020年上半期の半導体工場建設計画は140件、総額5兆円に上りましたが、南京・武漢・成都・広州など各地で半導体工場の建設中止や休業・破産が続出、膨大な損失を生む結果となりました。2020年10月末の19期5中全会で公表された第14次5か年計画(2021-25)ではハイテク技術の国内製造推進が標榜されました。中国が高いシェアを誇るスマホ、5Gは、アメリカが半導体市場から中国を締め出せば生産が困難になるため、半導体・AIを戦略的重点科学分野として位置づけ、独自のサプライチェーン、即ち内部循環を整備することが最優先課題になったのです。このため、2020年には中央政府の国家集成電路産業投資基金第2号や地方政府の半導体ファンドが相次いで設立され、中国版ナスダック(科創版)からの資金調達も図られました。