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第1171回 “海外仓”の話
(2025年5月22日)
最近、よく“海外仓”と言う言葉を目にします。“海外仓”とは、「海外倉庫」、即ち、中国企業が海外市場での物流効率を高めるために設けた物流拠点のことで、輸出製品をあらかじめ本国から輸送して、この中に保管して置けば、現地ユーザーの注文に即応できる利点があります。既にアリババや京東と言った越境ECを行う企業や、海外プラットフォームへの出展者がこれを使っていますが、最近、政府は自主ブランドを持つ中小企業にも“海外仓”を斡旋し、中小企業の積極的な輸出活動をサポートしています。実は、中国政府は、“海外仓”を単なる物流設備として位置づけるのではなく、国の戦略として進めている中小企業の輸出促進、グローバル化の重要なツールとして位置づけ、それによって国内産業の高度化を図ろうとしているのです。中国経済が低迷、国内消費が落ち込み、失業率が高まる中、中小企業もデジタル化を促進し、ブランド力を高めつつ、消費先を海外に求めて経済・社会に貢献することが求められています。それゆえ、政府はさまざまな税制上の優遇や補助金の支給を積極的に行いつつ、国家越境EC試験区を設置するとともに、“一県一品、一県一倉”政策を掲げて各地域の特産品の海外販路拡大を目論んでいるのです。
2024年6月、商務部などは<越境EC輸出を展開し海外倉庫の建設を推進することに関する意見>を出し、海外倉庫の質の高い発展を示唆しました。この時点で海外倉庫は2500カ所、総面積は3000万㎡に達し、AmazonやShopee、eBayなどの現地ECプラットフォームでも中小企業ブランド製品の競争力を向上させるための「最後の一キロ」が解決されることになりました。大局的に俯瞰すれば、盛んに推奨されている“海外仓”の設置は、一帯一路という物流を支えるカギとなるインフラであり、中国製品の国際物流ネットワークにおける結節点とも言えましょう。
例えば一帯一路の一帯では、注文を受け、国内で品ぞろえをしてドイツまで送るのに、空輸でも5~10日ほどかかりました。しかし、デュッセルドルフに“海外仓”ができたことで、ベルリンまで注文の翌日か翌々日には配達が可能になり、国内物流の場合と大差がなくなりました。利点はそれだけではありません。物流コストが大幅に減少し、販売交渉でも有利な立場を維持することができます。加えて、返品や取り換えも楽になり、とりわけ、返品の多いアパレル関係はその恩恵に浴することになるでしょう。