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Last Update:2017/1/11
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第323回 インターネット安全戦略と民主法治

Internet Security Strategy and Democracy by Law

(2017年1月11日)

  2017年はグローバリゼーションが終焉し、世界で民主法治が衰退する年になるのか。
  フィナンシャル・タイムズのチーフ・エコノミスト・コメンテーターであるマーシャル・ウルフは、「扇動政治家の情熱と野心が強いほど民主主義は崩壊し、独裁政治に陥る可能性が強まる。」と述べている(Financial Times 2016年12月21日、日本経済新聞 2016年12月25日)。民主法治を推進するべき西側諸国、とりわけ米国のトランプ次期大統領が、これを後退させようとしている。
  このことは、習近平体制下の中国にとっては、心地良いことかも知れない。中国は、保守主義、民族主義、文化主義を掲げて“一帯一路”構想を実現しようとしている。このとき、多党制の西側諸国の民主法治が衰退し、さらには国際司法も機能し得なくなるとすれば、西側の法治より伝統的価値観を基礎とする中国モデルのほうが優っていたという証左となるからである。
  2016年11月にインターネット安全法が公布され、2017年6月に施行される。また、2016年12月には「国家インターネット安全戦略」が発布された。国際人権団体などは、インターネット安全法はネット接続業者に個人情報の収集を求めたり、中国内で得られたデータの持ち出しを禁止したりすることは、ひいては国民の人権や言論の自由、プライバシーを侵害するものであると批判する。
  ビジネス面でも懸念は少なくない。在中米商工会議所のジェームズ・ジマーマン会長は「セキュリティー改善に役立たず、中国のイノベーションを後退させる。貿易とイノベーションの障壁を作るだけだ。」と述べている(Wall Street Journal 2016.11.7)。企業にはデータの提供なども義務付けられる場合があり、外国企業のライバルである中国国有企業に情報漏洩のリスクも生じることになる。
  国家インターネット情報弁公室が2016年12月に発布した「国家インターネット安全戦略」では、技術製品のインターネット安全審査制度が確立する計画であるとされている。審査主体、審査内容などは明らかでなく、この制度がいつ確立されるのかも未定のようだが、企業の懸念は強まっている。
  「国家インターネット安全戦略」は、その序文で中華民族の偉大な復興、中国の夢を実現するためのものであるという叙述がある。具体的目標を叙述した箇所では、「和平、安全、開放、合作、秩序」が挙げられているが、「和平」はテロなどへの対策という意識があるが、これはあくまで中国政府にとっての和平、テロの概念である。誰が、どこで、何に対して、如何なる方法で行う活動が和平に反し、テロであると認定されるのか。市民を置き去りにして、中国共産党、中国政府が決める判断基準によるということになる。民主法治という側面から再び検討すると、インターネット安全法及び安全戦略に対する懸念はさらに増すということになりそうである。

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