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Last Update:2018/8/22
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

第362回 不安視される証券市場の信頼性

(2018年8月22日)

  証券監督管理委員会(以下、「証監会」という。)は、2018年7月17日に同会業務に関するプレスリリースをした。ここでインサイダー取引、とりわけ上場会社のM&Aに関わるインサイダー取引における問題点が指摘された。
  証監会によると7件のインサイダー取引について処罰し、このうち6件が上場会社のM&Aに関わるもので、「江南水務」事件では不法所得938.8万元を没収し、かつ1877.6万元の罰金を科したという。
  証監会は、上場会社のM&Aにおいて不正が多いのは、内外の情報の格差がもたらす市場の欠陥によるとしている。一部の上場会社の従業員及び利害関係者が、情報取得の優位性を利用してインサイダー取引をしている。この結果、資本市場の秩序が乱され、投資者の適法な権益が害されている。そこで、投資家が上場会社の経営情報について公平に取得できるように保証し、広範な中小投資家の適法な権益及び資本の健全な発展を保障したいとしている。
  また、証監会は、「大公国際証券」の格付け業務を1年間停止する処分をしたことも明らかにした。処分理由は、同社には以下の問題があるからである。第一に、(1)同社及び関連会社の内部管理が不適切であり、第二に、(2)コンサルタント業務において不当に高額な費用を請求しており、第三に、(3)適法な業務資格を有さないものが業務を行っており、第四に、(4)一部の格付け業務が不適切であるからである。
  一方で証監会は、M&Aの審査期間を短縮するという発表も行なった。そして、万華化学による万華化工のM&A審査が終わり、M&Aを認めたと発表した。この審査期間はわずかに12日間であった。A株市場のM&Aは活発であり、2018年上半期の上場会社のM&Aは2017件とすでに2017年の年間件数に近づいており、取引金額は1.15兆元と前年同期比40.5%も増えている。これは上場会社のM&Aでも証監会の審査が必要なのは10%にも満たないからである。
  M&Aの審査が簡素化され、必ずしも全てのM&Aについて証監会の審査を必要としなくなったことは、証券市場を活発にする上でいいことなのかも知れない。また、この措置は、国有企業の再編、規模の拡大を図ろうとする現在の共産党指導部・政府の意向に沿ったものであるとも言える。
  しかし、大国有企業のM&Aを促進することに目を向けるあまり、おざなりな審査が行われ、審査対象外のM&Aなどであまりに多くのインサイダー取引が行われていては、健全な証券市場が形成できない。投資家が証券市場の信頼性を不安視することにもなる。真に市場メカニズムに従った証券市場の制度設計が検討されなければならない。

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