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Last Update:2018/9/12
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

第363回 中国における医療事故紛争処理

(2018年9月12日)

  李克強首相は、2018年8月27日に「全国医療改革業務テレビ電話会議」において、医療・医療保険・医薬に関する問題を改革し、大衆の病気治療・高医療費問題を解決しなければならないという指示を出した。
  同時に李克強首相名義で「医療紛争予防・処理条例」が制定され、同年10月1日から施行されることが発表された。
  医療紛争予防・処理条例は、全5章56条からなり、第1章「総則」(1〜8条)、第2章「医療紛争予防」(9〜21条)、第3章「医療紛争処理」(22〜44条)、第4章「法律責任」(45〜53条)、第5章「附則」(54〜56条)からなる。この条例の前に「医療事故処理条例」が発布されていたが、これを改正したのが新条例である。
  この条例は、(1)医療の質的管理、医療事故報告、紛争管理について規律し、(2)医療事故の専門的鑑定体制を整備し、(3)医療事故の賠償原則・基準を定めたものとなっている。また、(4)医師と患者双方の法律意識を高め、(5)衛生行政部門の医療事故予防・処理の監督・処罰機能を強化することも条例改正の背景であった。このうちとりわけ、医療紛争処理の原則、手続きを明確にした点に大きな特徴があると言われる。さらに、中国において病歴の改ざん、虚偽の鑑定・検視報告などの不正行為が多かったことに対して法的責任を明確にし、処罰規定を重くした。
  医療紛争処理については、(1)当事者間の協議、(2)人民調停、(3)行政調停、(4)人民法院への提訴、(5)その他の手段がある。紛争が生じた場合には、証拠の保全がなされ、重大な紛争については地方人民政府の衛生主管部門に報告しなければならないとするなどの規律がなされている。医療紛争処理については、調停、とりわけ人民調停が主体とされる。なお、この調停制度については、日本の医療ADRなども参考にされているようである。
  中国においてどのくらいの医療事故・医療過誤があるかという統計は発表されていない(発表したくない)ようだが、数十万件はあると考えても良さそうである。このように推察するのは、国家衛生健康委員会が、2015年に全国で4,000箇所の医療紛争人民調停組織を設置し、7.1万件の紛争を処理したと発表していることによる。2014年に人民法院が受理した医療事故損害賠償事件数は1万9,944件で、結審件数は1万8,340件であった。このようなデータからすれば、医療事故件数はこの数倍、したがって数十万件はあるとみていいだろう。このような状況であるから、多くの中国人富裕層が日本に医療ツーリズムに来ていると言える。
  和解社会を形成しようという中で、どのような紛争解決メカニズムを形成するかは、中国政府にとって医療分野だけでなく広範な分野に及び重要な研究課題となっている。

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