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Last Update:2018/10/10
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

第365回 “一帯一路”と貿易・投資紛争解決

(2018年10月10日)

  中国の“一帯一路”構想が進展を見せている。こうした中で、中国の投資先国において、中国政府や企業のプロジェクト・マネジメントのあり方についてコンフリクトが生じ、先進資本主義国からの批判の声も出始めている。
  “一帯一路”構想を進める上で、最大の問題は、紛争を解決するメカニズムをいかに構築するかということになるだろう。このとき、中国は、中国主導の紛争解決メカニズム、中国固有の枠組みを構築したいとの思いがある(廖麗「“一帯一路”争端解決機制創新研究—国際法与比較法的視角」法学評論、2018年第2期、172頁)。
  具体的な構想として、国家と国家間及び国家と投資企業間の紛争については、当事者間の友好的協議前置主義によりつつも、以下の紛争解決センターを設置しようという動きがある。第一に、(1)“一帯一路”調停センター、第二に、(2)“一帯一路”仲裁センターである。後者については、さらに①“一帯一路”商事仲裁センターと②“一帯一路”投資仲裁センターの設置構想がある。
  なぜ、中国はこのような固有の紛争解決センターを設置したいのだろうか。
  第一に、“一帯一路”沿線国は60数ヶ国からなり、①主体の多様性、②紛争内容の多様性、③紛争範囲の広範性(地域間紛争)があるから、これに対応したいということである。
  第二に、国際的には、世界銀行の国際投資紛争解決センター(ICSID)が存在し、ICSID条約に162カ国が加入しているものの、“一帯一路”沿線国のうち15カ国はICSID条約に加入していない。そうであるので、新たな紛争解決の枠組みが必要であるとの考えである。
  第三に、中国としては、ICSIDの仲裁に対する公平・公正さに不信感があることである。ICSIDが受理した事案を審理する仲裁人の約70%が先進資本主義国の仲裁人で、中国に不利な判断を示すことになるのではないかという懸念である。国際商取引紛争の90%は仲裁により解決されており、中国企業の契約でも90%の契約で国際仲裁機関による仲裁が選択されており、ところがその90%で中国企業が敗訴している(和佳「借力“一帯一路”中国応提昇解決国際商事争端的話権利」21世紀世界経済導報、2016年9月19日)という事実もあるからであろうか。
  しかし、国際的経験を積んで構築された既存の紛争解決メカニズムによらずに、中国固有のルールを設け、“一帯一路”構想に関わるプロジェクトから生じた紛争について、中国企業と共同で先進資本主義国企業が関わっているプロジェクトも今後増えると思われるところ、その商事・投資紛争を一律に中国で解決するようにしようということになると、それこそ公正・公正さが問われることになる。
  中国が本当に“一帯一路”紛争解決センター構想を具体化させるのか、この場合にはどのような仕組みが作られるのか、今後、注視する必要がある。

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