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Last Update:2019/3/27
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

第376回 対外開放と相互主義による信頼醸成

(2019年3月27日)

  中国と先進資本主義国との間で国際私法分野における融合の動きがあるように思われる。これは、外国判決の相互承認・執行という実務面で見られる最近の傾向である。
  外国判決の承認・執行とは、一般に一国の裁判所の判決は当該国内においてのみ法的効力を生じ、当然に外国に効力を生じるものではないが、渉外民事事件において外国裁判所が当事者の権利・義務を確定した判決について、本国の裁判所の判決と同等の法的効力を与え、承認・執行することをいう。
  一国が外国判決を承認・執行する法的根拠は、国際条約、相互の保証、本国法の外国判決の承認・執行に関する規定にある。国際社会では、司法共助に関する国際条約は実質的にないに等しく、そうであれば二国間の司法共助条約(相互の保証)によるしかない。中国は、現在39カ国と民商事司法共助条約を締結し、このうち38の条約が発効している。この38条約のうち、34カ国との間で裁判判決の承認・執行に関する司法共助の取決めがある。しかし、先進資本主義国との間では、フランス(1987年)、イタリア(1991年)、シンガポール(2018年)との条約があるだけである。
  そうであるところ、二国間で司法共助条約がないものの、外国判決を承認・執行する動きが見られる。その典型が米中両国の相互の裁判所の判決承認・執行である。
  米国と中国との間には民商事司法共助条約は存在しない(米国は主な貿易相手国との間でも同様に相互保証条約を締結していない。)。それでも、2009年に米国カリフォルニア州連邦地区裁判所が中国湖北省高級人民法院の判決を承認・執行した初の事案(湖北葛洲坝三聯公司及び湖北平湖公司が、米国ロビンソン・ヘリコプター社の生産物責任の損害賠償を請求した事案)があった。さらに、2017年10月にも米国カリフォルニア州連邦地区裁判所が江蘇省蘇州市工業園区人民法院の判決を承認・執行した事案がある。
  これに対して、2017年6月に湖北省武漢市中級人民法院は、米国カリフォルニア州裁判所の判決を承認・執行した。これは、中国法院が米国裁判所の判決を初めて承認・執行したものである。武漢中級人民法院は、「米国と中国は、民事判決を相互に認識し執行する国際条約を締結または締結していないため、原告の請求を支持するかどうかは相互主義の原則に基づくべきである。 審査後、原告が提出した証拠によれば、米国は中国法院の民事判決を承認・執行した先例があり、民事判決の相互承認と執行に関して両当事者の間には相互に有益な関係がある。」と判示した。
  このような国際条約や二国間条約によらない相互主義は、関係国家間の信頼醸成に貢献するものである。山内教授は、「21世紀の国際私法は、国家法の枠を超えて地球社会共通の解決策の探求に邁進する分野として再生されなければならない」(山内惟介『地球社会法学への誘い』(信山社、2018年)という。外国判決の承認・執行を任用するのも中国の対外開放が進展していることの証左であろう。

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